50代男性から遺言書でできることについてのご質問です。
私の母のことですが、何年か前に税理士さんに勧められて相続税対策のために甥(私から見たらいとこ)を養子にしたそうです。
その後いろいろ状況が変わり、相続税対策も必要なくなりました。
甥をそのまま養子にしておくと遺産分割でまたややこしくなるので養子縁組を解消したいそうです。
ただ母は今介護施設にいるので、役所等の手続きもすぐには出来ない状況です。
財産の分割のこともあり、遺言書を作成しようとしているのですが、もし遺言書に書くことで養子縁組を解消できるのであれば、その内容も含めると言っています。そのようなことは出来るのでしょうか?
また遺言書を書くことで出来ることと出来ないことを教えていただけないでしょうか?
よろしくお願いします。
私、小宇佐がお答えします!
※CBCラジオ「北野誠のズバリ」で2022年6月6日放送されたテーマを記事にしております。
※ラジオ出演時のFPと本記事で解説するFPが異なる場合があります。ご了承ください。
※ラジオ放送時の法律・税制に基づいておりますので、記事閲覧時と異なる場合があります。ご了承ください。
遺言書でどこまで出来る?
遺言書に記載して効力が生じる事項には、大きく分けて「財産に関する事項」と「身分に関する事項」、「遺言執行者の指定」があります。
養子縁組解消(離縁)は、分類としては「身分に関する事項」にあたりますが、残念ながら遺言書に書いても効力はありません。
養子縁組をしたり養子縁組を解消するのは、役所での手続きでしか行えません。
ただ代理人を立てての手続きは出来ますので、ご家族の方が代行することは可能です。
遺言書に書いて有効なもの
いくつかあるため、それぞれ紹介します。
財産
まず財産に関することから。
通常は誰に何を相続させるか、という相続分や遺産分割方法を指定するというのが主の目的ですよね。
相続は法定相続人が受け取るのが一般的ですが、法定相続人以外の人、例えば孫や子どもの配偶者、(人ではないが)特定の団体などに対しても遺言書に書くことで「遺贈」というカタチで遺産を引き継がせることができます。
また「特別受益の持ち戻しの免除」ができます。
特別受益というのは、ある相続人が生前に贈与された財産を指します。
通常は、この特別受益の分は、相続のときに遺産に戻したうえで遺産分割をおこないます。
(生前にもらってるので相続でもらえる分はその分少なくなるよ、ということです)
遺言書に書くことで、その特別受益の分は持ち戻ししない、つまり生前贈与が無かったことして遺産分割しなさい、と指定することができます。
もうひとつ。あまり知られていませんが、生命保険金受取人の変更も遺言書でできます。
ただ、保険契約上の受取人と違うことで保険会社や相続人間でのトラブルにつながるので、実際は保険会社に手続きをしてきちんと受取人を変えておいた方が良いですね。
身分に関すること
まず「子どもの認知」があります。
婚外子と言って婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもは、母親との法的関係は出産した事実から明らかですが、父親との法的関係は認知をしないと成立しません。
この認知行為を遺言書でおこなうことができます。
また相続人が未成年である場合、状況によっては未成年後見人や未成年後継監督人を立てる必要がありますが、これらを誰がおこなうか遺言書で指定することができます。
(実際にはその旨を遺言執行者が役所に届ける必要があります)
推定相続人の廃除・廃除の取り消し
他に「推定相続人の廃除・廃除の取り消し」ができます。
推定相続人の廃除とは、想像人になる予定の人のうち素行不良の人、例えば相続人に対する著しい暴言や虐待などをおこなった人を除外することを言います。
通常は生前に家庭裁判所に申し立てておこないますが、この廃除も取り消しも遺言書でおこなえます。
ただし、遺言書に書いてあっても、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てる必要はあります。
これは廃除に該当するようなおこないだったかどうかを家庭裁判所で判断、決定する必要があるためです。
遺言執行者の指定
遺言執行者は必ずしも立てる必要はありませんが、遺言書の内容が一部の相続人にとって不利なものであれば、相続人が実行しない可能性があります。
遺言の内容を確実に実行するために遺言執行者を立てますが、遺言書で遺言執行者の指定、または誰かに遺言執行者を選んでもらうように指示することができます。
トラブルが予想される場合は、遺言執行者は利害関係のない第三者を指定するとよいですね。
尚、遺言内容に子どもの認知、相続人の廃除が含まれている場合は、必ず遺言執行者を選任しなければなりません。
(指定されていない場合は、相続人が家庭裁判所に申し立てて選任してもらう)
遺言書でできないことは?
「遺留分減殺の請求を禁止すること」と「認知以外の身分行為」です。
兄弟姉妹を除く相続人には遺留分(最低限受け取れる遺産の割合)があります。
遺留分に満たない財産しか相続できなかった人は、不足分を他の相続人に請求することができます(遺留分減殺の請求)。
特定の人に遺産を多く継がせるために遺留分減殺の請求をしないように遺言書に書いても、その内容には法的な効力はありません。
また、遺言書に認知以外の身分行為に関する事項を書いても効力はありません。
遺言書で子の認知はできますが、離婚や養子縁組はできません。
せっかく遺言書を書くのであれば、出来ることと出来ないことを知っておかないと無駄になったりトラブルを招いたりすることがありますので今日のお話を参考にしていただければと思います。
相続についてのご相談は小宇佐・針田FP事務所にお任せください。