60歳女性の方からのご質問です。
私は飲食店で働いていますが、今回の新型コロナウィルスの感染拡大で勤め先が休業になり収入がかなり減ってしまいました。当面回復しそうにないので何か手を打たなければと思っていたところ、同じ歳の友人が年金を繰り上げて早くもらい始めたと聞きました。
確かに今の状況で年金が入ってくるとかなり助かりますが、年金をもらう時期を早めると、毎月もらえる金額も減るとも聞いてます。
繰り上げるとどのくらいの違いが出てくるのか、また、金額以外にも注意すべき点やデメリットなどがあれば、合わせて教えていただけると助かります
私、小宇佐がお答えします!
※CBCラジオ「北野誠のズバリ」で2020年6月15日放送されたテーマを記事にしております。
※ラジオ出演時のFPと本記事で解説するFPが異なる場合があります。ご了承ください。
※ラジオ放送時の法律・税制に基づいておりますので、記事閲覧時と異なる場合があります。ご了承ください。
年金のもらい始めは通常65歳から
老齢年金の受け取りは通常65歳からですが、希望すれば60歳〜70歳の好きな時期から始めることが出来ます。
この内60〜64歳に前倒しすることを繰り上げ、66歳〜70歳と遅らせることを繰り下げと言います。
基礎年金(国民年金)と厚生年金があれば同じ時期から受け取れます。
繰り上げや繰り下げは、1ヶ月単位で時期を選ぶことができ、手続きは年金事務所で行います。
繰り上げをした場合は、年金額はどのくらい減るんです?
1ヶ月ごとに0.5%ずつ減らされます。1年早い64歳なら6%、5年早い60歳からだと30%減額されます。
しかも減った金額は一生続きます。中には、65歳になれば本来の額に戻ると勘違いする人もいますが、戻りませんので注意が必要です。
繰り下げた場合はどのくらい増える?
繰り下げた場合は、1ヶ月に付き0.7%増えます。最長である70歳まで5年間繰り下げれば、42%増額されますので効果は大きいですね。
ただ、この5月末に年金改革法が成立し、それに伴いこの繰り上げ、繰り下げの条件も変わってきます。
年金改革法でどのように変わる?
変わる時期は、2022年4月以降なので、約2年後からです。それ以降に手続きをした場合に新しい条件が適用されます。
変わる内容を見ていくと、まず繰り上げについては、減額率が変わります。
1ヶ月ごとに0.5%ずつ減額だったものが、0.4%減額となります。
60歳からまるまる5年繰り上げた場合、変更前は30%減額でしたが、
変更後は24%減額となるので、結構変わりますね。
繰り下げについては、増額率は変わらず、1ヶ月ごとに0.7%増額のままですが、上限年齢が70歳から75歳に引き上げられます。
年金のもらい始めを最長75歳からにすることが出来るようになります。
ちなみに75歳まで繰り下げると、支給額は84%増となり大幅に増えます。
改定後の場合、もらい始めの時期でどう変わる?
改定後の率で考えた場合、年金を60歳からもらい始めた場合と65歳からもらい始めた場合の違いってどのくらいになるか気になる人もいるのではないでしょうか。
繰り上げの場合
改定後の減額率、1ヶ月ごとに0.4%減額と考えると、65歳からもらい始めた人の年金の総額が、60歳からもらい始めた人の総額に追いつくのは、80歳10ヶ月となります。
それより長く生きると差はどんどん開いていく、反対に80歳10ヶ月までに亡くなってしまうと、結果的に60歳からもらっていた方が多くもらえた、という結果になります。
繰り下げた場合
65歳受給開始の人を基準にすると、70歳からもらい始めた人が、65歳からの人に追いつくのは、81歳11ヶ月、75歳からもらい始めた人が65歳からの人に追いつくのは86歳11ヶ月となります。
ちなみに、1960年生まれで65歳に達した男性が90歳まで生きる確率は38%、女性の場合は64%となります。
こう考えると、女性は特に繰り下げの有効性が高いと言えます。
繰り上げ受給はしないほうが良い?
繰り上げ受給をすると、長生きすればするほど、損になります。
繰り上げ受給をしたほうが良い場合というのは、例えば、65歳より前に収入が少なかったり無かったりした場合に助かる場合だったり、人によっては健康上の不安があるなどで、平均寿命までは生きられないのではと考えると少しでも早めからもらい始めたいと思った場合などです。
ただ、長生きした場合は、繰り上げ受給しなかった場合などと比べるとその差はどんどん大きくなっていくので、大きな理由がない場合はしない方が良い結果になると思います。
繰り上げ受給の減額率以外のデメリットは?
いくつかあります。
障害年金や遺族年金など他の年金の支給が制限されます。
障害のある人の清潔を支える障害基礎年金は、65歳以前に初診日がある傷病が対象となります。
繰り上げると、その後で障害を負ったり状態が悪化したりしても障害基礎年金は請求できなくなります。
障害基礎年金の年金額は年間78万1700円(2020年度の障害等級2級)で、繰り上げて減った年金よりは高くなります。
また、遺族年金は65歳より前は、老齢年金と合わせては受給できません。このため、年金を繰り上げた妻は、自分が65歳になる前に夫が亡くなると、減額した自分の老齢年金か遺族年金のどちらかしか受け取れません。通常は金額の多い遺族年金を選び、65歳になったら両方とももらえることになりますが、自分の老齢年金は減ったままとなります。
繰り上げ受給は慎重に考えて行いましょう
年金は「長生きリスク」に対応するものと考えると、65歳、場合によっては70歳くらいまで働いたり、貯蓄を引き当てたりして生活し、その後年金を受給し始めたほうが安心した老後を送れると思います。
制度をよく理解した上で、自分や配偶者の健康状態や家計状況なども踏まえて考えてみてください。より詳しく知りたい方は小宇佐・針田FP事務所にご相談ください。