相続税の対策についてのご質問です。
先日知人から、母親からの相続の時に、相続税の支払いが大変だったと聞きました。
詳細はよくわからないのですが、父親が先に亡くなったときには相続税がほとんどかからなかったのに、母親が亡くなったときには税金が沢山かかったようです。
これはどういうことでしょうか?
相続には控除があるので、納税をすることは少ないと聞いていたのですが。
もし我が家にも起こりうることなのであれば、対策が必要なのだと思いますが、教えてください。
私、針田がお答えします!
※CBCラジオ「北野誠のズバリ」で2021年3月29日放送されたテーマを記事にしております。
※ラジオ出演時のFPと本記事で解説するFPが異なる場合があります。ご了承ください。
※ラジオ放送時の法律・税制に基づいておりますので、記事閲覧時と異なる場合があります。ご了承ください。
相続の控除とは
今回のご相談に関連するのは、相続税を計算する際に利用する「基礎控除」と「配偶者控除」の2つの控除についてのことと思います。
基礎控除とは
「基礎控除」というのは、家族構成に関係なく適用されるもので、3000万円+600万円×法定相続人で算出される金額を相続財産から控除していいですよ、というものです。
例えば夫婦と子供2人の4人家族で、最初に夫が亡くなった場合、3000万円+600万円×3(妻と子供2人)つまり4800万円を夫の財産から控除していいことになります。
よって夫がそもそも4800万円以上の相続財産をもっていないのなら、相続税は発生しないんですね。
一昔前の基礎控除は、5000万円+1000万円×法定相続人でしたので、この家族構成でしたら8000万円までの控除が出来、その当時日本国内で相続税を納める人は4%程といわれていました。
ただ税制改正により、平成27年1月1日以降の相続については、先ほどご説明した基礎控除となり、以前よりも相続税の納税者は増えています。
もしご自身が相続税を将来納めないといけないかご心配な方は、先ほどの計算式で算出される金額以上の財産を、被相続人(亡くなる方)が持っているかどうか、ご家族内で確認されては如何でしょうか?
配偶者控除とは?
これは先ほどと違い、被相続人の配偶者にのみ適用される控除をいいます。
被相続人の配偶者が相続する財産が、1億6千万円または法定相続分のどちらか多いほうまでは相続税が非課税となります。
この法定相続分というのは、被相続人の家族構成により異なります。
子供がいる夫婦の場合の配偶者の法定相続分は1/2(残りの1/2は子供)、子供がいない夫婦の場合は2/3(残りの1/3は親)、子供も親もいない場合は3/4(残りの1/4は兄弟)、子供も親も兄弟もいない場合は100%が妻の法定相続分となります。
いずれのケースでも、妻が相続する分は1億6000万円までは非課税となるので、多くのご家庭において妻が相続税を負担するということはないでしょう。
妻が1憶6000万円以上の財産を相続する場合どうなる?
その場合でも、妻の法定相続分までは非課税になります。
例えば子供2人がいる4人家族の場合、仮に夫が100億円の財産を持っていたとしても、妻の法定相続分の50億円は配偶者控除により非課税ということです。
これには、
- 配偶者の財産の形成における貢献があるため
- 配偶者の老後の生活を保障する必要があるため
- 短期間に相続が2回発生し、同じ財産に2回税金がかかることを避けるため
という理由がありますが、遺産を相続する配偶者にとっては、とても手厚い優遇(控除)ともいえます。
と、ここまでは良いのですが、実は注意点もあります。
注意点とは?
子供がいるご家族の場合には、特に二次相続に注意が必要です。
夫が亡くなり妻と子供達とで財産を受け継ぐことを一時相続、その後に妻が亡くなって今度は子供達だけで財産を相続することを二次相続と言います。
一時相続の時には先ほどご説明した配偶者控除があるので、妻が相続する財産は非課税になりますから、これ幸いとして妻が沢山の財産を相続すると、その後の二次相続で子供達が苦労します。
例えば先ほどの家族構成で、仮に夫が1憶5000万円の財産を持って亡くなり、このとき妻には1憶6000万円の配偶者控除があるので、これ幸いとして妻が1憶5000万円の財産全額を相続したとしても、相続税は発生しません。
1憶5000万円の遺産から1憶6000万円を控除できる(引ける)ので、一時相続における相続税は非課税ということです。
しかし、その後妻が亡くなったときに、残された子供2人には配偶者控除が利用できませんので、相当な相続税が発生します。
妻死亡時の財産も仮に1億5000万円の遺産があったとすると、2人の子供達は、1840万円もの相続税を支払わないといけません。
妻に全額相続させないほうが良い?
法定相続分どおりに相続をしたほうが、結果的に納税額を抑えられることがあります。
先ほどのケースで、仮に夫の死亡時に法定どおりの相続をした場合、一時相続時の納税額は665 万円、二次相続時の納税額は395万円、合計1060万円となります。
先ほどの1840万円と比べて800万円近くの納税額を抑えることができます。
配偶者控除は確かにとても手厚い優遇措置ではありますが、長い目で見ると不利になることもあります。
また、配偶者控除を利用するにも条件がありますので、ご注意ください。
配偶者控除の利用条件というのは?
まず法律上の婚姻関係でないと利用できないので、内縁の夫婦ではNGです。
次に期限内の申告が必要ですので、相続発生時から10か月以内に遺産分割協議を終わらせて、その内容に基づいて税務署へ申告しないといけません。
配偶者の納税が0であったとしても、税務署への申告は必要ですので、お忘れのないように。
ただし、そもそも基礎控除により相続税が発生しない場合には申告は不要です。
いっぽうで、もし申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合には、未分割で申告をすることになり、その場合には原則として配偶者控除が利用できません。
この時の対処法としては、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することです。
これにより、申告期限以降3年以内に遺産分割を済ませられれば、配偶者控除の適用を受けることができます。
当初の申告時に納めた税金から、配偶者控除により非課税が認められる分の税金が還付されることになります。
その後、母が亡くなり子供2人で遺産を相続することを二次相続といいますが、この二次相続について注意が必要ということですね。
一時相続については、配偶者控除という配偶者への相続に対する手厚い優遇措置があるので、相続税がかなり抑えられるようになっています。
よって分割協議がまとまらない場合には、専門家にもご相談頂くとよいと思います。
相続税について、お悩みがあれば小宇佐・針田FP事務所にご相談ください。