50代女性の方からのご質問です。
2年前に夫が他界したのですが、夫とは駆け落ち同然で結婚したので、夫の両親には会ったことがありません。葬儀にも親戚らしき人は誰も出席していませんでした。
今の時点で、特に具体的な心配やトラブルが有るわけではありませんが、私と夫側の親族との関係を断ち切る方法として「死後離婚」ということが出来ると聞きました。
会ったことも無い方達と親族のままでいるのも、ちょっとどうかなと思うので、手続きをしようかどうか迷っています。
ただ、手続きをすることで何か取り返しが付かなくなるようなことにならないかと言うことも心配です。
メリット・デメリットを教えていただけないでしょうか?
私、小宇佐がお答えします!
※CBCラジオ「北野誠のズバリ」で2020年11月9日放送されたテーマを記事にしております。
※ラジオ出演時のFPと本記事で解説するFPが異なる場合があります。ご了承ください。
※ラジオ放送時の法律・税制に基づいておりますので、記事閲覧時と異なる場合があります。ご了承ください。
「死後離婚」とは
正式には「姻族関係終了届」と言います。
「親族」は民法上の言葉で、親戚とほぼ同じ意味ですが、この親族は、「血族」と「姻族」に分けられます。
(正確には、「六親等内の血族」、「配偶者」、「三親等内の姻族」)
自分の血縁関係にある人を「血族」、配偶者の血族、または血族の配偶者のことを「姻族」と言います。
夫婦の一方が死亡しても、この姻族関係が自然に終了することはありませんので、そのままだとずっと「親族のまま」という状態になります。
「姻族関係終了届」は、この(死亡した)配偶者の血縁関係者との関係を終了しますよ、という届けですね。
死後離婚の効果は?
法的には、「扶養を命じられるかもしれない地位」が消滅します。
扶養には、経済的な扶養以外に介護なども扶養の範囲に入ってきます。
姻族関係のままだと、三親等以内の親族の扶養の義務が発生する可能性があります。
三親等以内の親族は、配偶者の両親や祖父母、曽祖父母、伯父伯母、兄弟姉妹、甥姪などとなりますので、かなり範囲が広くなります。(他にも、自分との間に生まれた子ではない子、その子の子と孫も入る)
ただし、これらの人の扶養の義務を負わされるのは、特別の事情があるときに限られます。
扶養義務が発生する特別の事情とは?
例えば、夫が亡くなった妻の立場で言うと、夫の両親の扶養をすることを条件として財産を生前にもらっていたり、相続したりしていた場合や、そもそも妻が夫の両親に扶養されていた場合など、主に経済面で「お世話になっていた」という状況だった場合です。
こう言った場合は、姻族関係があるままだと、近くに近親者が全くいない場合などに限られますが、夫の血族の扶養を家庭裁判所に命じられる可能性があります。
姻族関係終了届を提出すると、この義務はなくなりますし、家庭裁判所の審判も効力を失います。
また、民法では、同居している親族は、お互いに扶(たす)け合わなければならないと定められています。
これを「互助義務」と言います。
姻族関係を終了させると同居していても互助義務はなくなります。(あまり想定されないシチュエーションですが)
また「祭祀承継者」の引き継ぎをせずに済みます。祭祀承継者とは祖先の祭祀を主宰すべき人、のことで、墓守とか仏壇のある家を守る、と言うと分かりやすいかもしれません。
例えば、夫が祭祀承継者だったとして、その夫が亡くなり妻が引き継いだとします。このような状況で姻族関係終了を届け出ると、夫の親族と法的な関係がなくなるので、祭祀承継者をを夫側の一族に引き継ぐことになります。
原則、親族の人たちと話し合って(協議)決めますが、決まらないときは、家庭裁判所が祭祀承継者を定めることになっています。
(ただ、妻が祭祀承継者になっているケースはあまりないと思われます)
戸籍上など何かデメリットはあります?
戸籍上のデメリットは特にありません。
姻族関係終了届が受理されると、戸籍の身分事項欄に、姻族関係終了が記載されます。
姻族関係終了後に復氏届(婚姻前の氏に戻すための届)を提出した場合は、戸籍が変わるので、復氏届後の戸籍には姻族関係終了が記載されません。(氏=名字は必ずしも戻さなくても良い)
経済的な面では、遺族年金を受給している場合は、そのままもらい続けることはできますし、相続権も無くならないので、そこのデメリットはありません。
相続で注意することは、例えば配偶者が亡くなった後すぐに姻族関係終了届を提出したとしても、相続放棄したことにはなりません。
もし相続放棄したい場合は、別途通常通りの手続きが必要となります。
子供がいる場合はどうなる?
ここは結構ポイントになるんですが、姻族関係終了届を提出しても、死亡した配偶者との間の子には、法的な影響は生じません。
死亡した配偶者との間の子とその配偶者一族との関係は、姻族ではなく血族だからです。
つまり、相続する権利も消えていませんし、互いの扶養の権利と義務も残ったままです。
先ほど、「復氏」と言う話がありましたが、残された妻とともに子供も妻の婚姻前の氏に変更することはできます。
ただし、氏=姓を変えたとしても、子供が夫側の血族であることに変わりがないことには注意が必要です。
死後離婚は慎重に
死後離婚は自分にとってマイナスの状況なので「縁を切りたい」から届けを出すと言う場合が多いです。
家庭や親族の状況はさまざまだと思いますが、一度提出すると復活させることは出来ませんし、自分が頼ることも出来なくなりますので、以後の関係性をよくよく考えた上で決断するようにした方が良いですね。
死後離婚や相続の問題について、詳しく知りたい方は小宇佐・針田FP事務所にご相談ください。